SHKをぶっ壊す! 4
2019年 08月 25日
第4話:神様は宗教上の神ではない
もちろん、黙々とだから、神様が大惨事を止められない理由など話していない。
待ち切れない私は答えを断固として要求した。
「神様、もういいでしょ、それ食べちゃったんだから。次の料理が来るまでにちゃんと話してくださいよ」
神様は流石に満足した様子で理由を語るのにやぶさかではない。
「ええ、落ち着いたし、冷酒を頂いて語る気分ですしね」
「そらあそうですよね。で、二十人も死ぬような大惨事を神様なのにどうして止められないのですか?」
「その前に神様の方から質問ですが、貴方は神様がこの宇宙を創造したとか思っていませんか?」
「いいえ、私は思っていません。でも、キリスト教徒なんかはそう思ってるみたいですね。人間も神が創造したとね」
「そのようですね。けれども、神様はこの世の何も創ってはいません。勝手に誕生したのですよ。つまり、宇宙は、人間が研究で突き止めたようにビッグバンから誕生したし、恒星も惑星も生物も人間もビッグバンの後の進展や進化から誕生したものなのですよね。だから、この神様は何もしていません。人間だって人間が勝手に誕生して生きているにすぎません。もちろん、人間の世の中もこの神様とは関係なく存在しています。故に、この神様は人間の世の中のなにもコントロールしていないのですよ。この神様は、つまり私は、人間が言うところの宗教上の神ではないのですよ。キリストや仏陀の先にある神ではなく、この神様は超越的な存在であるに過ぎません」
「だったら、神様はどうして神様と自称するのですか?」
「それは、あなた方人間たちがこの神様の神秘的な力を目の当たりにして勝手に神と称したので私も自分のことを神様と称しているだけです」
「けど、神様だなんて自分に『様』を付けるのはどうなのでしょうね」
「僭越ですかね? でも、最初に神様と呼んだのは人間の方ですよ。私はそれに倣っているに過ぎません。お嫌なら単に神と自称しましょうかね?」
「いいえ、神様で結構です。神では短すぎて発音しにくいし。あ、それはともかく、神様が大惨事を止められない理由がまだですよ」
「え、もうほとんど説明しましたがね。だからね、この神様は人間の世の中をコントロールしていないと言ったでしょ。だから、人間界で生じることはほとんど変えられないのですよ。大惨事だって止められない」
「大惨事を止められないのなら、どうして自爆心中のことを私に話したのですか?」
「もちろん、その理由ならちゃんとありますよ」
「それはどういう理由ですか?」
「神様は、さっき、ほとんど変えられないと言いましたよね。ということは」
「少しなら変えられると?」
「そうです。二十人が亡くなる事実そのものは取り消せませんがマイナーな変更なら可能です」
「マイナーな変更? 具多的には?」
「またそれかよ。結局のところ神様は大惨事のことなど、どうでもいいのでしょ」
「どうでもよくはないですけど、悲惨なことなど日常茶飯事じゃないですか。だいたい人間界は不完全過ぎるのですよ。それにそれって神様のせいじゃないし」
「それはそうだけど、じゃあ、それを召し上がりながら説明してください。で、マイナーな変更って具体的には何をどう変えるのですか?」
「はい、では、これを頂きながら御説明しましょう。だから、二十人が死亡するという事実そのものは曲げられませんが事象を変更することなら可能です」
「事象って?」
「だからイベントですよ」
「だから、イベントって?」
「だから、出来事ですよ」
「あのね、私だって大学を出ているのだから事象がイベントのことでイベントが出来事のことくらいは知っていますよ。事象をどのように変えるのかと聞いているのですよ」
「あ、事象の意味を御存知でしたか、それはそうですよね。つまり、事象のセッティングを変更するのです。具体的に言えば、自爆心中事件が発生する場所を変えるわけです。ただし、日時は変えられませんけどね」
「場所を変えるって、元のセッティングでは北河内国際大学で自爆心中事件が発生することになるわけですが、どこで発生することにするのですか?」
「どこで発生するか? そこで貴方の出番です」
「私の出番?」
「そうです、その『どこで』を貴方に決めて頂きたいのですよ。だから、自爆心中の件を貴方にお話ししたわけです」
「どうして私なのですか?」
「それはたまたまです。あまり深く考えないでください」
「それはないでしょ、二十人もの人間が死亡する事件の発生場所を変更するのですよ、それを決めるのがどうして私かは私にとって重要な問題です」
「そうですか。だったら、説明しても構いませんが、貴方が理解できるように説明するには十年ほどかかりますが問題ないですか?」
「十年! 遠慮しておきます」
「そうですね、それが賢明です」
「じゃあ、別の質問に答えてください」
「まず言ってみてください」
「はい、それでですね、どうして事件が発生する場所を変えなきゃいけないのですか? 二十人が死ぬことはどのみち避けられないのでしょ?」
「そのことなのですけどね。死ぬのは犯人と北河内国際大学の十九人の学生です。北河内国際大学は確かに誰でも入れるアホ大学ですが、学生たちはまだ若いし、何の落ち度もありません。だったら、死ぬのは可哀想ではないですか?」
「まあ、アホは死ぬ理由にはなりませんからね。そうか、つまり、落ち度がある人たちが死ぬ設定にするわけですね」
「ま、そうですね。そこでね、今、貴方には腹が立つ人たちがいますよね」
「いるにはいるけど、死んでほしいと思うほど腹を立ててはいませんよ」
「けど、いるにはいるわけですよね。それは、たしか、ゆうちょ銀行と公共放送局のSHKでしたよね?」
「ええ、まあそうですね。ゆうちょ銀行の担当者は脳梗塞で字が満足に書けない姉に記入欄の小さい所定の委任状に記入してもらえと要求するし、SHKはというと、とっくに他界している母の没後の受信料を払えと言う。どちらも理不尽ではありますがね」
「でしょ。少なくとも北河内国際大学の学生よりは落ち度がある」
「いや、その理屈って無理クソですよね」
「無理クソでも、せっかくこの神様に出逢ったのだから選んでください」
「選べって?」
「嫌です。たくさんの人が死ぬ舞台を選ぶだなんて、まっぴらごめんですよ」
「そりゃあ、故人の没後の受信料を払えと要求するSHKの方が理不尽だとは思いますけどね」
「なるほど、これで決まりですね」
「決まりって何が?」
「だから、自爆心中事件が発生する現場ですよ。今、SHKの東京放送センターに決まりました。貴方が決めたのです」
「ほら、決めたじゃないですか」
「決めてませんよ」
「決めました」
「アホかお前は!」
「アホでも、お前でもありません、私は神様です」
「もう勝手にしろ! どうせ超絶な力を持つ神様には逆らえないのでしょ。私は自分の中で現場など選んでいないと思っておきますから、神様の好きにしてください」
「ほう、貴方は物分かりの良い人間なのですね、感心しましたよ。あ、次の料理が来ましたね。これは何かな?」
「お品書きによれば、『お口直しの氷菓』と『伊勢海老 季節の焼き物』ですよ。それにしても、俺もとんでもない野郎と関わっちまったな」
「野郎ではありません、私は神様です」
「ふうっ はいはい」
=続く=
by yassin810035
| 2019-08-25 10:09
| 公共放送をぶっ壊す