SHKをぶっ壊す! 2
2019年 08月 23日
第2話:神様
さて、あの忌々しい公共放送局の話の続きだったな。
SHK、すなわち、昭和放送協会の話な。
クソ暑いので随分とサボっちまったよ。
どこまで話をしたっけ?
あ、そうだった、去年他界した私の母の受信料の事だった。
母が死んでからの八ヶ月分の受信料を払えと言ってきたのだ。
主が死んで誰も住んでいない空き家の受信料を払えと言ってきたのだ。
一万五千円ほどの金額だから大したことではないが、死人の受信料とは理不尽極まりないし筋が通らない話だ。
その振込用紙が入った封筒を右手に握りしめる私は当然怒っている。
クソっ!
あの放送局め、遺族をバカにしやがって!
私は封筒を右手に握ったままエレベーターに乗り、八階まで上がり、自室に入った。
そして、ドアのカギをかけると、
ピーンポーン
すかさずインターホンが鳴った。
当然、私はインターホンのボタンを押した外の誰かに「どちらさんですか?」と呼びかけたわけだが、クソ暑くてだるいので結論から先に言うと、インターホンを鳴らせたのは「神様」だった。
本物の神様なのだ。
だから、「神」なのだ、「ゴッド」なのだ、「God」なのだ。
そんな突拍子もないことを私は何故信じたのか?
何故も何も信じざるを得なかったのだ。
その神様は自分が神様であることをものの見事に証明して見せたからだ。
すなわち、神様は私を伴って「あべのハルカス」の前に瞬間移動した。
「あべのハルカス」とは、もちろん、日本一のノッポビルのことだ。
で、その神様は「あべのハルカス」のことを一瞬にして逆立ちさせてしまった。
パッとね。
そして、一瞬にして元に戻してしまった。
もちろん、私はビビった。
ビビった私は神様に当然のことを聞いた。
「この前にもいろんな奇跡を見させてくれたわけだけど、これはダメでしょ、あべのハルカスの中にいた人たちも逆さになったわけですよね。だったら、きっと怪我した人がいますよ。いや、死んだ人もいるかも」
私の問いに神様は何食わぬ顔で答えた。
「そんなの全然大丈夫ですよ。中にいた人たちの両足を床に吸い付かせておきましたからね。だから、逆さにされても、頭から天井に落ちた人なんかいませんよ。みんな無事です、心配無用ですよ」
「そ、そうだったのですか。それにしても、あべのハルカスが白昼に逆立ちしちゃったわけだから、これから大騒ぎになりますよね」
「それも丸っきり大丈夫ですよ。中にいた人たちと周辺にいた人たちの記憶を消しておきましたからね。だから、世の中的には何も起きませんよ。さて、帰りましょうか。地下鉄の駅はどこかな?」
「え、瞬間移動で帰るのではないのですか?」
「神様は地下鉄が好きなのですよ。最近は中国人や韓国人の観光客がたくさんいるので、ごちゃごちゃしているのを眺めるのが楽しくてね」
「そんなの、神様なのだから中国人や韓国人なんか珍しくもなんともないでしょ」
「それが珍しいのですよね、神様は主に日本にいますからね」
「どうして日本なのですか?」
「だって、日本は神道の国でしょ、神社がたくさんあって正月なんかに大勢の人が神様をあがめてくれるので気分がいいのですよ」
「それだったら、キリスト教徒だって神様をあがめるでしょ」
「けど、キリストとかマリアの方が人気者でしょ、なんかそれって面白くないのですよね。そんなこともういいでしょ、だから、地下鉄の駅はどこでしょうかね?」
「神様なら、それくらいは御存知でしょ」
「細かいことは知らないのですよ」
「ああ、そうですか、まあいいや、こっちですよ、ついてきてください」
てなわけで、私と神様は地下鉄谷町線の阿倍野駅まで歩いた。
そして、駅に到着すると神様が券売機で280円の切符を買った。
それを見た私は少し感心した。
「へーえ、神様は駅の場所を知らなかったのに、私のマンションの最寄駅が天神橋筋六丁目ということを御存知なのですね」
すると、神様は意外なことを言った。
「あ、そうでしたか、貴方のマンションの最寄駅は天神橋筋六丁目なのですね。それは知りませんでした。神様は東梅田に行くつもりなのですよ。ほう、天神橋筋六丁目までの運賃も280円なのですね、偶然の一致ですね」
私は、神様が私の自宅に戻るつもりだと思ったので少し意外な気がした。
それでも、それならそれでいいとも思った。
「そうですか、神様は私の自宅に帰るのではなくて梅田に行かれるのですね、だったら、東梅田でお別れですね」
「東梅田でお別れ?」
「そうですよ、天神橋筋六丁目は東梅田の二区先ですからね」
「二区先なのはわかりましたけど、お別れはまだですよ」
「どうしてですか? あべのハルカスを一瞬にして逆立ちさせた貴方が神様であることはもう納得しましたよ、それでいいでしょ?」
「それがね話はこれからなのですよ」
「だったら、どうして東梅田に行くのですか? 私のマンションではなく」
「だから、貴方のマンションには後で行きますよ。その前に腹ごしらえです。昼下がりなのにランチがまだでね、お腹が減ったのですよ」
「食べるところなら天神橋筋六丁目の周辺にもたくさんありますよ、なにも梅田に行く必要なんかないですよ」
「それがあるのですよね。だって、天神橋筋六丁目の周辺には大衆的な店しかないでしょ。神様はねグルメなのですよ。だから梅田なのですよ。今は伊勢海老が食べたい気分でね。なので、梅田にある活け伊勢海老料理の中納言に行こうというわけです」
「え、中納言ですか、あそこはお高いですよ。貧乏人の私なんか大酒飲み女とディナーするときにしか行きませんよ」
「え、あれで高いのですか? 神様にとってはあれでボトムラインなのですけどね。ああ、そうか、御馳走しなきゃいけないとか思っているのですね。それなら心配無用です。神様が御馳走してあげますから」
「神様はお金を持っているのですか?」
「ええ、万札ならね、さるところにトラック一杯分くらいね」
「トラック一杯分! それって、どうやって手に入れたのですか?」
「瞬間移動ですよ」
「どこから?」
「日本銀行です」
「日本銀行! それって泥棒ですよね」
「瞬間移動です」
「同じじゃないですか」
「違いますよ。夜中に印刷機をちょこっと回して万札を余計に刷ってから瞬間移動させたのですよ。だから、日本銀行のお金はビタ一文減っていません。それに、万札がトラック一杯分くらい増えたって日本経済には何の影響も及びませんよ。さ、もういいでしょ、東梅田に行きますよ。貴方には大事な話があるのですよ」
「大事な話って、どんな?」
「それは食べながらお話しますから」
そのようなわけで、私と神様は地下鉄で東梅田まで行き、大阪駅前第三ビルの三十二階にある中納言のテーブルに着いた。
「大事な話」と聞いて気になって仕方がない私は早速そのことを持ち出した。
「で、大事な話ってなんですか?」
「おやおや、貴方はせっかちなのですね。神様はお腹が減っていると言ったでしょ。それに、この八月はクソ暑いしね。ここで少し涼んで何か食べてからでないと話などできませんよ。まずは食べましょう」
そう言われた私は気にはなるものの、まずは神様とランチをとることにした。
そして、先付と食前酒が運ばれてきた。
神様は目を細めながら食前酒の梅酒をすすり、冷製のオクラを口にした。
「ああ、やはり中納言で正解ですね。老舗の味は品がいい。やはりこうでなくちゃね。いつも思うのですが、食前の少量の梅酒って美味いのですよね。神様も唸らせるこの美味さね、人間もやりますね」
そのように感心する目の前の存在は、目の当たりにさせられた驚愕の奇跡からして神様に違いないのだが、その風情は何とも呑気だ。
ちなみに、この神様の容姿は怪談で有名なあの稲川淳二にそっくりだ。
それにしても、「大事な話」ってどのような話だろう?
気になる。
=続く=
by yassin810035
| 2019-08-23 10:30
| 公共放送をぶっ壊す